地域の期待に応えたいという思いから、より災害に強い施設が生まれた。
2022年の台風15号で清水区にも大きな被害が出て、この周辺も水道の水が使えなくなりました。井戸水があってよかったなと実感したのはその時でした。水が使えなくて人工透析ができない施設もありましたから、困っている患者さんを私たちのクリニックで受け入れたんです。近所の方にも井戸水を提供することができましたし、メディアの方も取材に来てくれました。
でも正直に言うと、もともと井戸をつくったきっかけは別の理由でした。透析には大量に水を使いますから、水道よりも井戸水の方がコストが下がるのではないかと考えたんです。安定した水質を確保するのが難しくて結局水道水を使うことになったのですが、いざ災害が起こってみると井戸を残しておいて本当によかった。一度役に立ったのだから、やはり期待には応えていきたいという気持ちになるんです。だからこの人工透析棟をつくる際には迷わず井戸も自家発電も備えて、どんな時にも安心して利用していただける施設にしました。



つくりたかったのは、木のぬくもりを活かした人工透析棟。
創造舎さんにオーダーしたのは、木のぬくもりを活かした平屋の人工透析棟でした。患者さんのことを思うのはもちろんなんですが、未来を担うこれからの建物ですから特徴も出したかったんです。受付まわりはもちろん、透析室にも感染症対策のためにつくった隔離室も木目をうまく使ってもらいました。
平屋にしたことで天井高を確保することもできました。この高さがあることでより快適で心地よい空間にすることができました。雨の日には屋根の下にクルマをつけて濡れずに車椅子で降りることができたり、平屋のメリットも発揮できていると思います。
設計の段階で、映像を使った完成イメージを見せていただいたのはとてもよかったですね。完成のイメージをしっかりつかんでから進めることができました。




人工透析棟は、これまでの経験と患者さんへの心遣いの集大成。
受付の手前には広いスペースを確保しました。患者さんが訪れる時間になると、ここは車椅子でいっぱいになるんです。かつては腎臓の病気の患者さんだけが行う治療でしたが、今では様々な合併症の中で腎不全という状況が起きて〝人工透析も〟行わなければならないという方が増えてきました。自分だけでは歩けない方も、高齢者の方も多いです。
限られた敷地面積の中で、経営上の効率を考えれば2階建ての方がいい。実際に人工透析の施設も2階で行われているところが多いと思います。でも垂直移動は患者さんの負担がとても大きいんです。2022年の台風被害を経験した後にこの土地を使わせていただけることになったこともあって、地域の皆様のことを思って平屋の施設をつくることにしました。


建物が完成してからが、本当のはじまり。
人工透析の施設は構造も独特なんです。血液をろ過するためにたくさんの水を使いますから見えないところにはその配管を通さなければならないし、ろ過するための大きな装置も必要になります。本館をはじめ何度か建物をつくってきましたから他社に依頼する選択肢もありましたが、創造舎さんが他のクリニックさんを改装された実績をみて間違いないと思い、お願いすることを決めました。
しかし建物は、実際に使ってみてからわかることもあります。つくってしまったら終わりではなく、患者さんのために改善したいことも出てくるんです。だから建物を建ててからもずっと気にかけて対応してくれる創造舎さんの姿を見て、あらためてお願いをしてよかったなと思っています。社員の皆さんも楽しそうで、私たちも仲間に入れてもらったような気持ちになります。

この場所で、少しでも穏やかに過ごしていただくために。
透析の患者さんの日常を考えると、本当にたいへんだと思います。透析をするときに針を刺す穿刺は痛いですし、透析をしている間はここで4時間も過ごさなければならない。それを繰り返すんですから。好きなお酒も漬物も、果物も我慢したりして。だから少しでも心地よく過ごしていただけるように、私自身も尖らずに穏やかでいたいと思っています。およそ40人のスタッフと一緒にやっていますが、患者さんだけでなくみんながストレスなくいられる施設になることを心がけています。
この人工透析棟は、患者さんの辛さを少しでも減らすことを願ってつくった施設です。これまでの出来事や思いが積み重なって完成した施設ですから、この建物とともに安心して治療ができる環境を提供していきたいと思います。


